すごい経歴

 ローマ・カトリック教会のフランシスコ法王(82)が関心を寄せる難民や移民などの問題について、その支援に奔走するベトナム出身の神父が名古屋市にいる。自らもインドシナ難民として来日し、工場で働いて苦学した経験があり、技能実習生らの相談にのりながら、23日からの法王来日に意を強くしている。
 今月10日の日曜日、名古屋市中村区のカトリック五反城(ごたんじょう)教会の聖堂は約400人のベトナム人で埋まった。3年前からこの教会で主任司祭を務める大海明敏(おおみ・あきとし)神父(55)=民族名ホアン・ミン・マン=が毎月1回開くベトナム語のミサだ。愛知県内のほか静岡など近県から大勢が集まり、信徒でない人も多い。ミサ前には、罪を告白して赦(ゆる)しを得る「告解」の順番を待つ長い列ができる。
 ミサに来た技能実習生のベトナム人男性(25)は、来日後に受ける講習中に病気になり、実習先の会社から実習を拒まれたという。教会の支援で入院し最近退院したが、実習先が見つからず、大海神父が弁護士らを交えて受け入れ先を探している。来日のために多額の借金がある男性は、このままでは帰国を迫られるが、「とにかく日本で働きたい」と訴える。
 大海神父は1983年、ベトナムを船で脱出。インドネシアの難民キャンプで1年過ごした後、84年に来日した。来日当初は、大阪のプラスチック工場で働き、「布団のない部屋」で暮らした。今のベトナムの若者の話を聞く度に「私が来たころと(外国人を巡る)実情はたいして変わっていない」と感じる。
 大海神父は若い頃、照明器具を作る別の会社に移り、大阪で夜間の専門学校に通った。「社長さんがいい人で、私は運が良かった」と振り返る。
 南山大学(名古屋市)の神学科に進んで99年には神父になり、神戸などの教会に赴任。02年には日本国籍を取得し、ボートピープルとして海を越えた経験から姓を「大海」にした。「明敏」はベトナムの民族名の漢字表記から取った。
 フランシスコ法王が15年に発表した回勅(かいちょく、世界への宣言文)は「ともに暮らす家を大切に」と題され、社会的弱者への視線が鮮明だ。大海神父は「弱い立場にある者を受け入れるよう説いている。言葉や習慣の違いから困っているベトナム人らを、信徒でなくとも受け入れるのは、正しいことだ」と語る。
 今年6月から教会に通い始めた、とび職の技能実習生、グエン・バン・トイさん(31)は、長女(6)と次女(4)を母国の実家に残し、妻(27)も京都で技能実習生をしているという。貯金して母国に自宅を建てるため、早朝から夕方まで工事現場で働くきつい日々。「話を聞いてもらえる人がいることで、毎日がんばれる」と話している。

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