親が子を承認しない文化

自らの手で息子を絞め殺し、未だ何も理解できない父親。
根は深い。親が子を承認しない文化が原因。

以下、朝日の記事。

 6月に東京都練馬区の自宅でひきこもり状態だった長男英一郎さん(当時44)を殺し、殺人罪に問われた元農林水産事務次官・熊沢英昭被告(76)の裁判員裁判で、東京地裁は16日、懲役6年(求刑懲役8年)の実刑判決を言い渡した。執行猶予はつかなかった。
 殺された長男は発達障害の一つ、アスペルガー症候群の疑いと診断され、片付けなどが苦手な特性があった。熊沢被告が「ごみ捨てなんて基本的なこと」「迷惑かけないでくれ」などと責めた点について、証言に立った主治医から「症状に合わせた対応ができていない」との指摘もあった。子どもを思いやる立場からの見方もある。
 法廷では熊沢被告に妻や後輩らが同情する証言をした一方で、長男の思いを代弁する証人は現れなかった。妻は「アスペルガーに生んでしまって申し訳ない」、熊沢被告は就職の失敗について「もっと才能があれば」。哀れむような言葉はあっても、命を絶ったことへの謝罪はなかった。
 だが、検察官が明らかにした友人の供述調書によると、長男はSNSで自身の発達障害を呪う一方、「お父さんは批判にさらされながらもBSE(牛海綿状脳症)問題を解決に導いたすごい人」と父親を誇る書き込みもしていた。友人は調書の中で「尊敬する父親に理解してほしかったのでは」と推しはかった。
■「俺の人生何だったんだ」と泣いた
 オンラインゲームで一緒に遊んでいたこの友人は、悩みを相談したこともあった。
 長男からは「私もリアルダウン(現実の世界でひどく落ち込むこと)したことがあるが、今は幸せ」と励まされた。友人は「優しい人柄に触れて、前向きになれた」と答えている。
 「いつか親に認めてもらいたい、それだけが長男の望みだったのではないか」。教育ジャーナリストのおおたとしまささん(46)は公判内容からそう推察する。ストレスで体調を崩し、かすかな希望を求めて同居を再開した後、「俺の人生何だったんだ」と突っ伏して泣いた長男。被告はその時に「ごみを片付けなきゃ」とつぶやいたが、ほしかったのは共感だったのではないかとみる。中学時代に受けたいじめの内容に話が及んだときも、母親は「靴に画びょうを入れられた程度」と、深刻に受け止めた様子はなかった。
 「発達障害があってもなくても、子ども時代からいじめや受験の失敗で壁にぶつかったとき、望ましい親の接し方は『いてくれるだけでいい』とありのままを認めたうえでつらさに寄り添うこと。否定することでも、問題を解決してあげることでもない。難しいが、子どもが自らの力で立ち直れるかどうかは、それが分かれ道になることが多い」(阿部峻介)
■本人も家族も救うには
 熊沢被告は長男に「殺される」とおびえていたと供述する一方、行政や警察に相談していなかった。その理由について公判では「暴行を受けた精神的ショックで余裕がなかった」「警察沙汰にすれば親子関係が悪くなる」と説明した。中高年のひきこもりが社会問題になるなか、家族をどう支えていけばよいのか。
 内閣府の推計によると、仕事などを避けて半年以上家にいるひきこもり状態の40~64歳は約61万人いる。親が亡くなれば子が生きるすべを失う恐れがあると指摘され、熊沢被告もSNSで「私もいつぽっくり死ぬかわからない」と長男に自立を促すメッセージを送っていた。
 全国の「ひきこもり地域支援センター」に寄せられた相談は2017年度に約10万2千件。12年度の約3倍に増えたが、「KHJ全国ひきこもり家族会連合会」の池上正樹理事(57)は今回のように相談をためらう事例も多いとみる。「親の多くは周りに知られたくないと思い、社会的に地位が高い人の場合はなおさらその傾向が強い」
 池上理事は相談体制について、人目を気にせず、知人のいない近隣の自治体でも相談できる仕組みを整える必要があると提案する。行政に対し「本人だけでなく、家族全体を支える発想に転換しなければならない。親が相談して『自分だけじゃない』と気持ちが楽になれば、結果的に子どもが救われる」と語った。(有近隆史、新屋絵理)

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